2011年5月4日

原子力の専門家小佐古敏荘氏、涙ながらに辞任(要約)

南ドイツ新聞 - 201152
内閣官房参与の小佐古敏荘氏は、政府は短期的な目標を達成するために場当たり的な対応をしていると抗議し、涙ながらに辞表を管首相に提出した。子どもに対する限界放射線量を上げたことなどに対して、学者として加担できない、と日本で最も名高い大学である東京大学の放射線安全学教授は言う。彼が特に憤るのは、政府が緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)を出し渋ったことだ。福島第一原発からの退避地域を最初からSPEEDIを使って実効被ばく量に合わせる必要があったのが、政府はこれを後になって行っている。

同じく東京大学教授で日本気象学会理事長の新野宏氏は、SPEEDIの公表に反対した。「パニックを避けるため」というのが理由だ。米原子力安全委員会は、震災の10日後に既にそのような放射線地図を公表していた。菅首相は議会で専門家の意見が割れたと弁明。首相は3月16日、原子力ロビーとは異なる意見を内閣で聞くため、61歳の小佐古氏を6人の専門家の一人として起用していた。このロビーが原子力関係当局を操っている。小佐古教授は批判的過ぎたようで、政府にとって不都合なため彼が諦めたのだろう。政府の専門家が公然と辞任するのは非常に珍しい。枝野官房長官がこの辞任を「誤解」と受け止めているのもそのためだろう。過去54年間政権を握ってきたことで政治と原子力ロビー間の制度的腐敗に責任のある自民党は、小佐古氏の辞任を受け、管首相の統制力の弱さをあらためて非難した。

菅政権は4月半ばに子どもに対して3.8マイクロシーベルトの限界値を決めた。しかしこの値に達すれば大人に認可される限界値にまで達することとなる。しかも国際的な放射線保護基準では、この被ばく量は極力避けるべきとされる。しかし、関係当局は20ミリシーベルトに至らなければ問題ないかのようだ。「もしこの決定を容認すれば自分の研究者生命は終わりだ」と小佐古氏は憤る。「自分の子どもをこの値の放射線にさらすことはできない」。

では、小佐古氏はなぜ腹を立てるのでなく泣いたのだろう? 涙は日本の政治において珍しいことではない。涙は本気を物語る。そして、このところ管政権は対立する意見を表明する専門家やメディアに圧力をかけている。批判的な報道は「害のあるデマ」とみなされる。小佐古氏は子どもにとって危険な路線の片棒を担ぐよう圧力をかけられたようだ。泣くのも無理がない。(Christoph Neidhart)